ネトに続く現の旅
「ハナちゃんの家って、うちのアパートのすぐ近くなんだけど、最近旦那さんが亡くなったんだ。お昼時にふたりでそうめんを食べていたら、それが喉につっかかっちゃってね。だんなは物凄く犬が好きな人で、五匹の犬を毎日欠かさず散歩に連れて行ってたんだ。だから今は、ハナちゃんが旦那さんの変わりに、犬たちを毎日散歩してる。でも決まってこんな暑い盛りの真っ昼間に。それで、ここからは俺の想像なんだけど、旦那さんが亡くなったのってこんなお昼時だったじゃない?だからこそハナちゃんは、こんな時間にわざわざ散歩してるんだよね、きっと。旦那さんが乗り移ってそうしてるとか、そんなオカルト的なことじゃなくて、この時間帯だけが、ハナちゃんと旦那さんと、犬たちがみんなで会える神聖な時間のようなさ。そういうのってなんとなくわからない?」

「うん。上手く説明できないけど、よくわかる。」

私はハナちゃんにもらった飴の袋をびりっと破いた。
この暑さで少し溶けかかった飴玉が、袋の内側にくっついてしまっていた。
私は、ハナちゃんの少し荒れた指先を思い出しながら、ピンク色の飴玉を舌の上に乗せた。
すもものようなミルクのような、懐かしい味がした。
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