優しさに包まれて
『小見山。資料、良く出来てるよ。
あとは家賃だな。 う~ん。この広さで、この設備だと、近隣の相場は、大体140,000円~145,000円くらいか。』

『はい。ただ、近隣は築浅物件がないので、もう少し高く設定してもいいのかなと思っているんです。駅近で新築。設備も整っています。ペットもOKなので、相場よりも20,000円くらい上げて、募集してみたいと思うんです。部長は、どう思われますか?』


部長は、近隣相場の資料と岡本様の物件資料を交互に見て、静かに顔を上げた。

そして、部長は手元の資料を私に渡しながら、ドキドキさせる笑顔で言った。

『小見山。お前に任せる。俺は、お前を信頼してるから。』

『…ありがとうございます。』


そう答えたあと、その笑顔が私だけの笑顔になればいいのに…そんなことを考えてしまった。

でも、私の目に写ったのは、私に資料を渡すために差し出された部長の左手。

そして、薬指に輝くリング…。

一瞬で現実に引き戻された。

毎日見ていて、わかっているのに、部長のことが好き。

諦められない。

でも、今の関係を続けるには自分の気持ちに嘘をついて、ただの上司だと思い込むしかない。

私は、薬指のリングを見つめたまま、小さくため息をついた。




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