ねがい
風と少女の出会いの丘。
木々の狭間を吹き渡る風が若葉を揺らし、そろそろ春から夏へと変わる頃。
少女は少年と出会いました。
町外れの大きなけやきのある丘。
けやきの木の下にビニールシートを敷き、少女はスケッチブックを広げていました。
そこから見える町をスケッチブックに一つ一つ描きながら。
空は青、屋根の赤、ビルは灰色。
丘の上は風が吹き抜け、少女の髪をそっとゆらしました。
そこにあるのはやさしい風の音だけ、他には何も音はありません。
とても静かでおだやかな時間の中、スケッチブックの街並みはにぎやかに描かれているのに、少女の口元は固く引き結ばれたままなのです。
少女にもその理由はわかっていました。
「おねえちゃん、何をしているの?」
不意に掛けられた声にぴくりと小さく肩を揺らして少女は顔を上げると、そこには男の子が人懐っこそうな笑顔で立っていました。
さっきまで誰もいなかったのに、誰もここには来なかったのに、少女が不思議そうな顔をしていると男の子は大きな瞳をくるりと動かして、少女のスケッチブックを覗き込み、そしてにっこりと嬉しそうに唇を緩めました。
「おねえちゃん、絵、上手だね」
しかし少女は何も答えません。
いいえ、答えることが出来ないのです。
少女の喉は声を出すことを忘れてしまったのだから。
答えることが出来ないのでフルフルと首を横に振り、少女は男の子を見つめました。
すると、少女はあることに気づいたのです。
少女は少年と出会いました。
町外れの大きなけやきのある丘。
けやきの木の下にビニールシートを敷き、少女はスケッチブックを広げていました。
そこから見える町をスケッチブックに一つ一つ描きながら。
空は青、屋根の赤、ビルは灰色。
丘の上は風が吹き抜け、少女の髪をそっとゆらしました。
そこにあるのはやさしい風の音だけ、他には何も音はありません。
とても静かでおだやかな時間の中、スケッチブックの街並みはにぎやかに描かれているのに、少女の口元は固く引き結ばれたままなのです。
少女にもその理由はわかっていました。
「おねえちゃん、何をしているの?」
不意に掛けられた声にぴくりと小さく肩を揺らして少女は顔を上げると、そこには男の子が人懐っこそうな笑顔で立っていました。
さっきまで誰もいなかったのに、誰もここには来なかったのに、少女が不思議そうな顔をしていると男の子は大きな瞳をくるりと動かして、少女のスケッチブックを覗き込み、そしてにっこりと嬉しそうに唇を緩めました。
「おねえちゃん、絵、上手だね」
しかし少女は何も答えません。
いいえ、答えることが出来ないのです。
少女の喉は声を出すことを忘れてしまったのだから。
答えることが出来ないのでフルフルと首を横に振り、少女は男の子を見つめました。
すると、少女はあることに気づいたのです。