ねがい
(―弟に、……コウタに似てる)

少女は先日失った自分の弟に似た面影を持っている少年をじっと見ていました。
男の子はその少女の瞳に答えるように、大きくにっこりと笑いました。

年恰好も、笑い方も。
少女の弟にそっくりだったのです。

(コウタ……!!)

呼びかけようとする声も出せず、少女はただうつむきます。
するとそんな少女の様子を見て、少年はポンと拳を手のひらで叩くような仕種をしました。

「もしかして、お姉ちゃん、声出ないの?」

うん、と頷けば少年はスケッチブックを指差しました。
思いついた、と嬉しそうに笑って。
まるでひだまりのようなあたたかい笑顔でした。

「それなら、もしそのスケッチブックが空いてるなら、文字でお話しよ?」

僕はおねえちゃんとお話がしたいんだ。

少年は無邪気にそう首をかしげ、少女を見つめました。
二人の間を吹くそよ風は気持ちよく通り抜けていきます。
けやきの葉が風に乗って一枚、二人に間を縫うように飛んでいきます。

髪を押さえながら少女は買ってもらったばかりのスケッチブックの最後のページを開き、うん、と頷くと絵筆を置きました。
筆箱から鉛筆を取り出し、少年に向き合いました。

「おねえちゃん、いいの?」

うん、と頷くと少年はやったーと両手を挙げて跳ね回りました。そしてすとん、と少女の横に腰を下ろすと、最初の質問を口にしました。
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