ねがい





「ねえ、長老」

次の日、風太は風の長老と呼ばれるおじいさんを訪ねました。
長老は白くて長いひげを皺の刻まれた手のひらでゆっくりと撫でていて、風太がその膝の上に座ると、長老は風太の頭をそっと撫でてくれました。

「あかりおねえちゃんの声、元に戻るかなあ」
「悲しみという感情が、あの子の喉に空気を震わせる力を奪っているのかもしれないな」
「悲しみ……?」

風太は後ろを軽く振り返るようにして肩越しに長老の顔を見ました。頬に触れる柔らかいひげの感触に目を細めながら。

「あの子は死んでしまった弟のことを想って、胸を痛めている。悲しそうな顔をしているのも、そのせいなんだよ」
「ぼくはおねえちゃんをずっと見てたんだ、コウタくんと一緒に丘で遊んでたときも、おねえちゃんがひとりぼっちで絵を描いているのも知ってる」

おねえちゃんはあんなにコウタくんが大好きで、コウタくんもお姉ちゃんが大好きで。
二人はいつも一緒で、いつも笑ってたんだよ。
そしたらぼくも笑顔になれたんだ、うれしかったんだ。

だからね。
ぼくはおねえちゃんが笑ってるのが見たいんだ。

すると長老はこう言いました。風太の頭をそっとなでながら、少しだけ悲しそうな顔をしましたが、風太はそれに気づきませんでした。長老がなでてくれるのが気持ちよくて、風太は機嫌よく目を細めていたのです。

「かなえる方法が、ひとつだけあるよ、風太」

お前の好きなものを言ってごらん?と長老が問うと、風太は指を折り数えながら好きなものを探しました。

「うーんと、お散歩でしょ、けやきの木でしょ、小鳥さんに、ぽっかぽかの太陽、意地悪だけど本当はやさしい雨雲さん、風の友達に」
「それから?まだあるだろう、思い出してごらん?」
「…それから、あかりおねえちゃん!!一番大好きなのは、あかりおねえちゃんだよ、長老!!」
「いいかい、風太、よくお聞き」

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