飼い猫と、番犬。【完結】
しかしながら、そんな子供じみたことを堂々と言い続ける程に幼くもない。
今の私はこの人の立ち上げた新選組という組織の副長助勤という立場にあるのだから。
少しずつではあるものの、京からの入隊者も増えつつあるし、何より沖田総司という名前がこの町で良くも悪くもだが認識され始めている。
もう今更この道から逃げることは出来ないのだ。
……ま、逃げる気なんて毛頭ありませんけどね。
とりあえずあの黒いのにはあまり関わらないようにしましょう。
少なくとも私の方が立場は上ですし、そのうち必ずや私を笑ったことを後悔させてやりますよ……。
茶碗の底に残る艶やかな白い粒を見つめて胸に湧いた醜い感情を押し留めると、代わりにあの黒いのを思い浮かべた。
途端に違う感情が頭を占めてくれるのだから、この時ばかりはあんなのでも役に立つ。
「わかってますよ。て言うか私がいつも隊士を苛めてるみたいに言わないでください。あれはただの稽古です」
「あ、てめぇ俺の沢庵取んな!」
「育ち盛りなんです」
土方さんがいつも最後にとってある大事な沢庵を一気に浚って口に放り込むと、拳骨が飛んできた。
そんな私達のやり取りを見て周りの皆がまたかと呆れた視線を寄越すけれど、それで良かった。
これが私の守りたい日常。
此処についてきた理由。
私にはこの人達が隣にいれば、それで良いのです。