飼い猫と、番犬。【完結】


そりゃ確かに暑いですけど!
取るとすっきりしますけどっ!


だけど重要なのはそんなところじゃなくてだ。


この人は本当に秘密だと理解しているのだろうか。何度言っても二人になるとさらりと女扱いしてくる。


確かに然程声も大きくないし、屯所ではない。とはいえ誰が何処で聞いているのかわからない道端でそれはどうなのか。


それに……昔から対外的には男で通してきた。道場に出入りしてた人間以外から今更そんな風に微妙な女扱いされてもなんか痒くなるからやめてほしい。



「平気やて。まーんなことより暑いし早よ次行くでー」


そんな私の思いを他所に、山崎は余裕の笑みを残してすたすたと歩いていってしまう。


本当に自由だ。


一応気配には敏いあいつが言うのなら大丈夫なのかもしれないけれど。


相変わらずの掴めなさは、気儘に足許に擦り寄っては逃げていく、猫のようだと思う。


「……はぁ」


今日何度めかすらもうわからない溜め息を地面に落として。


少し前を歩くその黒猫のあとを追いかけた。










「……で、なんですか、此処は」


また薬種問屋にでも行くのだろうと思いついてきてみれば、そいつが暖簾を潜った先は全くの別世界。


勿論本当にわからない訳じゃないけれど、思わず漏れた言葉に山崎は可愛らしく小首を傾げる。
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