飼い猫と、番犬。【完結】
と思ったのも束の間。
「ごっそさん」
満面の笑みで笑うそいつにこめかみがひくつく。
勿論奢ってもらう気など更々なかったのだが、加えて山崎の分まで何故か私が払う羽目に。
当たり前のように私に押し付けた山崎の笑みを見ると一発殴ってやろうかとも思うけれど。
まぁ借りは残したくないですし?これで帳消しになったと思えば安いもんですよ……。
溜め息一つを代わりに吐いた。
「お」
そんな私の隣で、ふと山崎が楽しげに弾んだ声を漏らす。
つられて見たその顔は通りの先へと向いていて。それを辿って更に視線を滑らせると、通りを歩く人々の合間に黒い集団が小さく見えた。
巡察中の隊士達だ。
柔らかそうな髪がくるりと跳ねた平助がその先頭に立って、こっちに歩いてきてる。
あ。
他の隊士の方に向いていた平助の顔がこっちを見た気がして、私は何とはなしにゆるりと手を上げた。
いつもならこんな時、同じように手を上げ返してくれるのに。
何故か上がりかけた平助の手は途中で止まり、その目は何となく、私じゃない所を見ているようにも見えた。
思わず首を捻りそうになって。
すぐにその理由を理解した。
……山崎だっ。