飼い猫と、番犬。【完結】

以前から平助はこいつのことを毛嫌いしていた。


少しでも話題に上るだけであからさまに機嫌が悪くなる。


この前の洛陽動乱の時だって、自分も額を割る大怪我をしたくせに、屯所で顔を合わせた途端「何もされてないっ!?」って大騒ぎした程。


そりゃ山崎の親切さは私も意外だったけれど、大丈夫だよと説明してもその猜疑心は解かれることなく、何故か益々敵対心を露にする一方。


だから今、私が山崎と一緒にいることに怒ってるの……かも。


うーん。



「こんなけ暑いと見廻り連中も大変やろなぁー。ま、食うもん食うたし俺らはそろそろ戻ろーや」

「あ」


どうしようかと考えていれば、山崎の手が風呂敷包みを浚っていく。


「ほら行くで」


平助達とは反対の、屯所の方へと歩き出すそいつは、表情にこそ出さないものの、もしかしたらそんな平助が苦手なのかもしれない。


でないと一度押し付けたそれを自分で持つなんてやっぱり変だ。



「……はい」


ほんの数瞬逡巡して。
私はそのまま山崎の後ろを追いかけることにした。


平助は隊務の途中。こんな所で余計な話をする訳にはいかない。


それにこいつの前でこいつを庇うような言い訳をするのも何か癪。


また、戻ってから話せば良いですよね。


そう自らに言い聞かせて、少しだけ後ろ髪を引かれつつも、くるりとその場をあとにした。
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