飼い猫と、番犬。【完結】
悲痛に顔を歪める平助は、私が単に土方さんから山崎に心変わりしたと思って、それで、怒ってるのかもしれない。
昔から情には人一倍厚かったから。
「……違うんです、私は土方さんの為についてきたんじゃありません。ただ皆と離れたくなかっただけなんです」
平助は私の過去も知ってる。
重くならないようにと笑いながら言った私に、はっと顔色を変えた。すぐ表情に出るところは本当、昔から変わらない。
そんな平助に少しだけ気が緩んで、そっと息を吐き出した。
「あの人は此処の副長で、私は一隊士。それ以上でも以下でもありません。私は『男』なのですから」
そうだ、いつまでもズルズルと引きずっていたって仕方ない。
立場だって責任だってあの頃とは違う。あの人はこの新選組の要。そのことに寂しさを感じていてもどうしようもないのだ。
それに、それは私も同じ。
幾人もの血に濡れたこの手は、今更何もなかったあの頃へは戻ることは出来ないのだから。
「だから平助も、もう私を女だと思わなくて結構ですよ」
これ以上周りに気を使わせる訳にはいかない。
何も望まないと決めた筈なのに、弱い自分が嫌になる。
今の私は、新選組の沖田総司。
過去の色恋に気をとられている場合ではないのだ。
「……やっぱり総司はわかってない」