飼い猫と、番犬。【完結】
そう言ってふてくされたように腰を下ろした平助は、組んだ足に手をついて、じっと私を見た。
「俺は、総司のこと女子だと思ってるから」
「……え?」
思わず、聞き返す。
そんな言葉を改めて面と向かって言われると、何かちょっと、照れる。
それは本人も同じだったのか、慌てた様子で上半身を揺らした。
「その!総司は総司だから!その、外だと仕方ないかもしれないけどさ、俺の前ではその、そのままで良いって言うかさ……」
しどろもどろで言葉を足す平助の動きが面白くて、つい笑いが込み上げた。
さっきのは言葉が少なかっただけで、他意はないのだろう。一瞬でもドキリとした自分が恥ずかしい。
「有り難う、平助」
元はと言えば、平助が山崎を目の敵にするのも私が最初にそう吹き込んだからだ。
さっきのも私達のことを思って。今もこうして私を気にかけてくれている。
優しい人。
こんな人を好きになれたら良いのに。
そう思ってすぐ、それを掻き消すように首を振った。
色恋事など、今の私にはもう不要なのだから。
「総司?」
「や、何でもありません。もう虫も静かですし、私達もそろそろ寝ましょうか」
ゆっくりと、少しずつ、過去にしていけば良い。
全ては自分で決めたこと。刀を握る以上、うじうじしてばかりはいられないのだ。
隣に横たわる平助の背に此処にいる理由をもう一度噛み締めて。
私もまた、そっと目を閉じた。