飼い猫と、番犬。【完結】
「はい?」
小首を傾げて振り返った彼は可愛いけれど。
「あ、いや、その……」
不味い。何て言えば……。
どう考えても不自然なこの状況に上手い言い訳が見つからず、言葉に詰まる私に山野さんの眼が刺さる。
開きかけた唇を閉じてごくりと唾を飲み込んだ丁度その時だった。
……、あ。
「行きに少し、寄るところがありまして」
「俺が使い頼んでんだよ、悪ぃがまた今度にしてやってくれ」
少し離れたところに気配を感じて咄嗟に口にした言い訳。それを後押しするように飛んできたのは、廊下を歩いてきた気配の主、土方さんの言葉だ。
貴方なら絶対話を合わせてくれると思ってましたよ……。
その声に視線を移した山野さんに、そっと密かに胸を撫で下ろす。
「あ、はい、ならまた次にでも」
普段あまり過度な馴れ合いを好まない土方さんは、昔から付き合いのある私達以外にとってはどうも取っつきにくくあるらしい。
少々ピンと背筋の延びた山野さんは案の定簡単に諦めてくれた。
笑顔の一つくらい見せれば良いのに。
とは思うものの、にこやかに愛想を振り撒く土方さんを想像してみると、可笑しいを通り越して寧ろ怖い。気持ち悪い。
それに、もう一人の副長である山南さんがいつもニコニコ笑っている分、こっちの副長はこれで良いのかもしれない。
「すみません。また機会があれば」
とりあえずさっさと立ち去るべく、笑顔で会釈して背を向ける。
流れる景色の中で一瞬合った土方さんの目はどう見ても私を『馬鹿』と苛んでいて。
後で小言ですね……。
思わず頬がひきつった。