飼い猫と、番犬。【完結】

────




「ほら行くで」



一度は押し付けた風呂敷包みをその手から奪えば、沖田は僅かに逡巡しつつも大人しくついてきた。


その尻尾のように揺れる髪の向こうで、藤堂くんの不愉快に歪んだ顔が俺達に向いている。


……否、正しくは、俺に。


隠すことなく向けられたその感情に、俺もまた一瞬笑みを深くし、さらりと前を向いた。


古今東西嫉妬とは醜いもの。


だが男のそれにだけ括って言えば、向けられる身としてはこれが意外と気持ち良くもある。何故ならそれ即ち羨望でもあるからだ。


いつまでも友でしかいられない自分と、あくまで『男』である俺。


良い悪いは兎も角としても、沖田に異性として認識されている俺は、藤堂くんにとっては邪魔者以外の何者でもない。


恋仲の噂は本当だと周りが認め始めたのも、それを加速させているのだろう。


加えて、沖田自身の俺への態度も徐々に軟化してきている。


彼からすれば心中穏やかではない筈だ。


……まぁ?


折角こない町で会うたんや、ちぃっとばかし見せつけさしてもらお。


そんな悪戯心で沖田の手から荷を浚ってみたのだが。


まだ数歩しか進んでいないところで、包みがクンと引かれた。



「持ちます」



甘えときゃええのに律儀なやっちゃな。
< 120 / 554 >

この作品をシェア

pagetop