飼い猫と、番犬。【完結】

なかなかどうして義理堅い奴だと思う。


言い方を変えれば糞真面目。


与えられた仕事は黙々とこなし、稽古も人一倍熱心に取り組む。


自分だけではなく他人にも厳しいが故に、一部の隊士には恐れられてはいるが、だからこそ逆に懐いている人間も少なくない。


強さを鼻に掛けず、寄って来る連中にもあくまで対等で話す。


始めは女顔だのなんだのと絡んでいた奴らの中には、長くいるにつれて、取り巻きのようになっている者もいる程。


人当たりは良いのだ。


そんなこいつが唯一、笑顔を見せないのが俺だったりする訳で。今も片方の眉が歪に寄せられている。


そんな奴こそ笑わせてやりたくなるのは俺だけじゃないだろう。




「……えい」

「うひゃ!?ちょ、何するんですか!」


空いていた手でその脇腹を擽れば、思惑どおりその手が風呂敷から離れる。


代わりに流れるような動きで裏拳が飛んできた辺りが、やはり普通の女子とは違って面白い。


「笑うかな思て」

「は?」

「んなことより早よ帰んでー」


弄り甲斐のあるやっちゃ。


僅かに仰け反りそれをかわした俺は、再び通りを歩き出す。


何となく足取りが軽いのは、この一日にそこそこ満足しているからかもしれない。
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