飼い猫と、番犬。【完結】
それから半月もすると彼岸も過ぎて、朝晩の風は幾分爽やかになってきた。
けたたましく鳴いていた蝉に代わり、涼しげな蟋蟀(コオロギ)の羽音が夜の空気を震わせる。
窓から吹き込んでくる風がいつもより強いのは、また颶風(グフウ:台風)が近付いて来ているからなのだろうか。
「どないしはりましたんえ?」
目を瞑り、外の音に意識をやっていると、熱の冷めやらぬ女の身体が腕に絡み、指が我が物顔で胸を滑る。
コトを終えた直後からベタベタしてこられるのは正直面倒臭い。
ちったあのんびりさせてくれ。
「なんでもあらへんよ、雨でも降りそうやなぁ思て」
だが勿論そんなことは言える訳もなく。当たり障りのない笑みを浮かべて身を寄せると、その肌に指を這わせた。
それだけで女は満足げにクスクスと笑う。
楼の女はある意味単純で楽だ。
あくまでもこの中だけの関係。向こうも慣れているだけに余計な詮索はしてこない。それでも何度か通えばそれなりに情を移してくれる。
自由の少ない彼女達は、そうすることで外と繋がっているのだ。
だから俺みたいな情報目当ての人間とでも、関係を続けてくれる。
「ほな今日はそろそろ帰るわ」
「あら、今日は何も聞かはらへんの」
「たまにはそんな日もええやろ」
「ふふ、ほんに狡いお人どすなぁ」
無論、どちらも相手によりけり、持ちつ持たれつ、多少の労力も必要だ。
あっさりと襦袢を羽織り袖を振る女の頬を撫でて。俺もまた早々に部屋の襖を滑らした。