飼い猫と、番犬。【完結】
昨日よりも幾分湿気を孕んだ風が髪を靡かせる。
すでに陽は落ち、足早に空を流れていく雲が月明かりを朧にしている。真っ直ぐに続く通りの先はすっかり闇に溶け込んでいた。
塀の向こうに生える木々は大きく揺れ、ざわざわと葉が重なり合う響きは不思議と耳に心地よい。
時期としては少し遅い気もする。恐らく今年最後になるだろう颶風の湿った臭いのする風を受けながら屯所に戻った俺を、意外な人物が出迎えてくれた。
「遅いお帰りで」
廊下の壁に凭れ掛かるようにして座っていた藤堂くんが俺を睨み上げる。普段他ではあまり見せない仏頂面なのは、最早鉄板だ。
まぁ、だからといって別に痛くも痒くもない。そんな視線は慣れっこだ。
「日は跨いでへんさかい隊規には触れへん筈やで。たまの非番やもん、のんびりしたいやん?」
「のんびり、ね、すっごく白粉臭いけど」
「ほぉ、中々ええ鼻しとるなぁ自分」
あくまで態度を崩さず、笑って肩を竦めてみせる俺に、藤堂くんは更に顔をしかめて立ち上がる。
「あのさぁ、そんな風に遊ぶならいい加減総司にちょっかい出すの止めてくれない?見てて苛々するんだけど」
不機嫌そのままで単刀直入な彼に、思わず口角が上がった。