飼い猫と、番犬。【完結】
「別に自分にゃ関係ないこっちゃろ、何で苛々すんねん」
「それはっ……」
「ああ、好いとるからか?」
僅かに言い淀んだ藤堂くんの代わりに言葉を放つ。
恐らく、ずっとその胸だけに秘めてきた、積年の想いを。
まさか俺に言い当てられるとは思っていなかったようで、藤堂くんは愕然とした様子で瞠目し黙り込んだ。
若いなと思う。
目の前の想いに駆られてのことなのだろうが、それでも、言いに来る相手は俺ではない。
「せやけどそれこそ自分の勝手やろ。別に横恋慕しとる訳やないんやし、自分にとやかく言われる筋合いあらへんで。俺に文句言う暇あるんやったらあれに直接言うたらどうや?……好きやてな」
「っ」
藤堂くんが拳を握る。
別に、間違ったことは言ってない。誰かに遠慮して己の想いを飲み込んで生きていたって苦しいだけ。
仮にも刀を握り、切った張ったの中に生きているなら尚のこと。あとで後悔しても遅いのだ。
言いたいことがあるなら言えば良い。でなくば何も伝わらない。
周りに気を使い己の想いを殺して生きる──
そんなん、おもんないやろが。
唇を噛み締め俯く藤堂くんを見つめ数瞬。
暫し無言で佇む俺達を急かすように、ぽたりと雨が落ちてきた。