飼い猫と、番犬。【完結】
「……はっ!?よっ、嫁っ!?」
一瞬にしてその顔から敵対心が消える程に、その事実は意外だったらしい。
誰にも聞かれずにいたから話したこともなかったのだが、こうも大きく反応されると何故か楽しくなるのは大坂人の血が騒ぐからなのか。
「ヘ?何?じゃーお嫁さんいるのにそんなふらふらしてんの?」
「おったて言うたやろ、とっくに離縁したわ」
「あーだよねー……」
「だよねってなんやねんコラ。間男作って出てったんはあっちやしな」
ふん、と少しばかり大袈裟にふんぞり返る。
その事に関して言えば、今はもう特に何の感情も湧かない。
確かに一度は惚れて連れ添った女、当時は多少心も痛んだが、仕事とはいえ俺も違う女と通ずることもあったし、裏稼業故に多く家を空けることもあった。
そんな時、子もおらず、あいつが一人家で何を思っていたのかを考えるともう何も言うことはなかった。
あれにそうさせたのは、間違いなく俺なのだから。
三行半(ミクダリハン・離縁状)を書いてやったのは、これ以上あいつを縛り付けないようにと決めた、俺の最後の情けだ。
今となってはやはり独り身の方が気も楽。だから後悔などない。
……まぁあのむず痒い二人見とると邪魔してやりたなるけどや。
とまぁそれは兎も角、その経験から一つ、言えることがある。
「口にせな伝わらんこともあるっちゅうこっちゃ。腹ん中でごちょごちょ思とるくらいなら言うてまえ」
溜め込んでたかてええこと一つもあらへんわ。
それにや、あれは好かれとるん絶対気ぃついてへんし。