飼い猫と、番犬。【完結】


「よぉないんやったらしっかせなあかん。……まぁ今日はなんぼでも泣いたらええさかい、明日は、ちゃんと見送ってやるんやで?」


流石に介錯人でもある沖田が葬儀に出ない訳にもいくまい。


親指で涙を拭ってやりながら、幼子に言い聞かせるように小首を傾げて顔を覗く。


小さく頷きつつもまた泣きそうな顔で眉を潜めたそいつに微かに笑んで、俺はその頭を少しだけ強引に引き寄せた。



「今日だけ貸したろ」


そう言ってぽんぽんと背を叩いてやると、肩口に顔を埋めた沖田は僅かに固まったあと、素直に身を預けてきた。


堰を切ったように感情を露に泣きじゃくるそいつに、やっと胸がすっと軽くなる。


いつものこいつだ、と。


感情を溜め込んだって良いことなど何もない。泣きたい時は泣けば良い。


過去やしがらみ、その他諸々でそれが出来ないのならこうして俺の前だけは素でいれば良い。



……せやないとつまらんやろ。



思いの外、心を移していると自覚はある。


糸が切れたこいつをどうしてもほっとけなかった。痛みを抱えたこいつが、見ていられなかった。


今だって、こうして素直に甘えてきたことが単純に嬉しくもある。


この温もりが心地良い。


今日のこれは特別だとわかっているのに。










「……今日だけ、な」



花咲くを待つ京の夜は未だ肌寒く温もりを求めるもの。


言い訳か念押しか。
どうとでも取れる言葉を一言吐いて。


その薄い背に回した腕にぎゅっと力を籠めた。

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