飼い猫と、番犬。【完結】


「総司」


けれど不意に名を呼ばれ、襖に掛けた手を止めた。


はい、と返事を返して振り返ると、笑みを消した一くんと目が合う。


いつもながらその背筋の伸びた綺麗な正座姿は、真っ直ぐに見つめられると此方までつられて背が伸びるから不思議だ。


何となく改まった空気を感じて固まった直後、一くんの口許が少しだけ緩んだ。


「……いや、なんでもない。お前が元気ならそれで良い」


僅かではあるが穏やかに細められた目が擽ったい。


言葉少ない一くんにそんな風に言われると、全てを見透かされている様な気になってしまう。


その意味ありげな言葉が山南さんのことを言っているのだというのは何となく理解出来た。


だからこそその笑みはこそばゆくて、むずむずする。



「早く寝ないと明日が辛くなりますよ。……じゃ、おやすみなさい」


これ以上その話に触れていたくなくて、さらりとそれだけ返して襖を開ける。


誰もいない部屋は暗く肌寒かったけれど、一人になった解放感にほっと息が零れた。


ついさっきまではもう少し二人でいたいと思っていた筈なのに我ながら現金な奴だと、思わず頬が引きつった。





……別に、そーゆーのじゃないですから。
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