飼い猫と、番犬。【完結】
まぁすぐに起きた山崎は何事もなかったかのように普通で、逆に拍子抜けしたくらいなのだけれど。
その日は葬儀でバタバタしていたし、翌日からはあいつが西本願寺へ行ったりして屯所にいない事が多かった。
何となく顔を合わせ辛いのもあって、あれからまともな会話はしていない。
でも移転も終えて此処での生活にも漸く落ち着き始めた今、ずっとこのままという訳にもいかないだろう。
……別に普通で良いんですよ。山崎だって気にしていなかったし変に意識する方が可笑しいんです。
……一くんに妙な勘違いされてなかったら良いんですけど。
考えれば考えるだけ溜め息は増える。
「はぁー……っ、けほっ」
色々考え過ぎて結局何に悩んでいたのかもわからなくなった私は最後に一つ盛大に息を吐いて、冷たい布団へと潜り込んだ。
三人が東下してしまうと、色々なところで少しだけ雑務が増えた。
元よりうちは寄せ集めの浪士の集まり。鬼の居ぬ間にといったところなのか、彼方此方でだらけた様子が目立ち出した。
増えていく平隊士の数に比べて上に立つべき幹部も少ない。そろそろこの体制も変え時なのかもしれない。
頭の片隅でそんなことを思いながら忙しい日々を過ごして幾日。
いつもより遅くなった湯屋からの帰り道、心地良い風に季節を感じる夕暮れ時のことだ。
「よおねぇちゃん」
馬鹿が、現れた。