飼い猫と、番犬。【完結】
長屋への裏路地は薄暗い上に人通りも減るからか、時折こういう馬鹿が出る。
いい加減うんざりだ。
「急ぐので退いてください」
「まーまーそんな怖い顔しちゃ可愛い顔が台無しだぜ?何もとって食おうって訳じゃねぇんだ、ちょっと一杯付き合ってくれよ」
横を通り過ぎようした私の前に立ちはだかったそいつから、ふわりと酒の臭いが香る。酔っ払い程鬱陶しいものはない。
ちょっとばかり図体がでかいからといって私が大人しく引き下がると思ったら大間違いだ。
「退けと」
「言うてるやん、なぁ?」
もう驚かない、……訳はない。
突然の登場は心底驚くからやめて欲しい。
反射的に何もない腰に手をやった私は、隣でのほほんと微笑む山崎を睨み付けた。
「何でこんなとこにいるんですか」
「んー?早よ会いとうて迎えに来てもうてん、かいらしろ?」
「っ、げほっ!な……!?」
「ほら早よ帰ろ帰ろ。大事な体になんかあったらかなんわ」
「ちょ、変な物言いは止めてくださいよね!」
赤子が出来た夫婦(メオト)じゃないんですから!
慌てる私の反応すら楽しむかのようなこの人は、あれ以来まともに話すのも久々だというのに、気にする様子なんて微塵もない。
やっぱり考え過ぎていただけだと胸を撫で下ろしつつ。
何かちょっと、悔しい。