飼い猫と、番犬。【完結】
「ほな戻ろか」
柔らかく笑んで手を差し出す山崎は、一体何を考えているのだろう。
何でこんな所にいる?
何で未だ私に構うのか。
遊ばれているだけのような気がするのに、時折見える優しさに思ったよりも気を許してる自分がいる。
過去の刻を共有していないからこそ今この京において、気負わなくて良い部分もある。
それが凄く悔しくて認めたくなくて、ふいと顔を逸らした。
「……、一人で帰れます」
「もー意固地やなぁ、折角来てんし仲良う帰ろうやー」
「すぐそこですから。それに一緒にって貴方っ」
「おい、お前ら俺を無視す」
「邪魔です」
細い路地を一人歩き出す。
すっかり忘れていた酔っ払い男は金的に膝蹴りを入れるとあっさりと退いてくれた。(動かなくなったというのが正しいかもしれない)
「えげつな……」
すると後ろから珍しく怯えたか細い声が聞こえて。容赦なく敵の胸に刀を突き立てるこいつでも恐ろしく思う事があるのかと少し関心した。
そこからちょっと歩いた所にあるいつもの長屋。
カタカタと戸を鳴らして入った私の後ろを、山崎が当然の如くについてくる。
「……ちょっと。私今から着替えるんですけど」
「うん、そやから手伝うたろかな思て」
「馬鹿も休み休み言ってください」