飼い猫と、番犬。【完結】
そういうところがこいつの本心を見えなくしている気がする。
適当な事を言って誤魔化すのはその特殊な仕事柄癖付いたものなのか、ただの性質なのかは知らないけれど、きっとわかってやってる。
つい振り回されてしまう山崎の一挙一動に、もう溜め息しか出なかった。
「……大体、何でこんな所にいたんですか?使いの帰りなら早く帰った方が良いと思いますけど」
助けようとしてくれたのは流石にわかるし有り難くも思うけど、あのくらいはよくあること、別に大した問題じゃない。
男の恰好にさえ着替えてしまえば『沖田総司』を知る人間ならそう容易く手を出してきたりはしない。
無駄に私に時間を使うくらいなら早く屯所に戻った方が良い。
このまま居座られたら益々帰屯が遅れるだけだ。
これ以上は入らせまいと土間に立って入り口を塞いだ。
既に辺りは暗闇に落ちている。白々しい月明かりの中、少しだけ背の低い山崎と視線を合わせて数瞬。
どこから取り出したのか、小さな白い包みを指に挟んだそいつは、内緒話をするようにそれを口許に立てた。
「自分、最近あんま体調良ぉないやろ」
くっと顎を引いて上目に私を見る目の迫力に、言葉に詰まる。
確かにそれは事実なのだけれど、まさか気付いていたとは思わなかった。
だってそのくらい接触らしい接触はなかったから。
「……ちょっと、だるくて、ちょっと咳が出るだけですよ」
「阿呆、酷なったらどないすんねん阿呆、早よ言え阿呆」
う、怒って……る?