飼い猫と、番犬。【完結】
隊でどう思われていようが、俺から見れば頑なに己を律する不器用な優男だ。怖くもなんともない。
寧ろこの人は言いたいことははっきり言われることを好むらしい。
今も少々頬は引きつっているものの、はぁと深く息を吐き出して頭を掻く副長に、怒りの感情は微塵も見えなかった。
ちゅうか年下やしな。
気苦労ばっか一人で背負い込むさかい、そないしけた皺ばっか出来んねん。
くっきりと眉間に刻み込まれた皺を眺める俺に、幾分落ち着いた視線が向けられる。
ま、臭い話やあらへんみたいやな。
そう思ったのも束の間。
「……家茂公上洛に伴って奥医師(将軍とその家族を診察する医者)も共に京に入るらしい。でだ、以前近藤さんが江戸に下った時にその奥医師と話をしていたらしくてな、恐らく今日明日にうちに招くことになる」
「はぁ」
「直接紹介してやっからお前も色々教えてもらえ」
「えー面倒臭……」
「……命令だ」
不満を包み隠さず半目になった俺に、副長の眉間がぴくりと動く。
……もー俺別に医師のつもりやあらへんのに。
そっちの知識が多少あると知れてからというもの、中々便利に使われている気がする。
頼まれた以上は勿論手は抜かないが、女の身体を診るなら兎も角、汗臭い野郎ばかりを診させられるこっちの気にもなって欲しい。