飼い猫と、番犬。【完結】
たまーに何日風呂行ってへんねんっちゅーくっさいのんとかおるしな……あーばばちっ!
あの何とも言えない酸っぱい臭いを思い出すだけで吐き気がする。
ああいう輩に今後益々頼られるかもしれないと思うと心底辟易した。
唯一の利点と言えば、これまで以上に堂々と沖田に触れられることくらいで。
……まぁそれもおもろそうやな……。
間違いなく必死に拒否するだろう沖田の顔を想像すると中々楽しそうにも思えて、ふむと顎を摘まんだ。
「兎に角、その先生には隊士の健康状態も診てもらう。お前はそれを手伝ってやってくれ」
「はいはい、承知や」
「はいは一回」
おかんめ。
「はーい」
そんな気のない返事に丸めた紙を投げてくる副長に、掌でそれを打ち返したあと。
流石に『遊んでる暇はねぇんだ』と青筋を立てたその人に部屋を追い出された俺は、留守居という名の非番を風の通る庭の大銀杏の上で過ごした。
ちらちらと降る木漏れ日を受けつつ浅い睡眠をとっていると、僅かに騒がしくなった屯所の気配に目が覚めた。
他の連中に遅れて戻ってきた局長ら上役に案内される体躯の良い男が例の奥医師のようだ。
……へぇ、あれが、なぁ。
思いの外若く、あまり年も変わらない様に見える。
「……あふ」
しゃあない、ちょっくら行ってこよか。
欠伸一つに伸びをして。
観念した俺は寝転がった体勢のままずるりと木の枝から身を滑らせた。