飼い猫と、番犬。【完結】
落花の情、流水の意



温かな湯船に体を沈めると、一日の疲れがするするとほどけていく。


夏とは言えやっぱり湯船は気持ちが良い。



「……はぁ」


一度大きく伸びをした私は、白い湯気が立ち上る水面を片手で掬って、指の隙間から零れ落ちる湯を眺めた。


広い浴室はとても静かで、白く霞んだ視界もあってか、何処か夢の中にいるような気持ちになる。


常に誰かしら人がいる町の湯屋では有り得なかったこの状況にはまだちょっと慣れなくて、変な感じだ。


なんかもの凄い贅沢をしてる気分……。


屯所に出来たばかりの真新しい木の匂いがする風呂で膝を抱えた私は、首を後ろに預けてそっと目を閉じた。



先日、うちに来た奥医師の松本先生が行った健康診断。


私自身は何も問題はなかったのだけれど、あまりに体調の悪い隊士が多いのを見かねたその人は、近藤さん達にまず体を清潔に保つ為に風呂を作ってはどうかと提言したらしい。


そこらの大名屋敷にもない風呂を作れと言うのも凄いけど、言われて作る近藤さん達も凄過ぎる。


しかも病人を囲って休ませる療養室まで用意された。


精をつけろと豚や鶏までやって来た。


最近の屯所はなんか……凄い。





「……出よ」
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