飼い猫と、番犬。【完結】
夏から秋へ、空はゆるりとその表情を変える。
箒で掃いたような薄い筋雲が天高くを静かに流れていて、以前より幾分乾いた風が気持ち良く通りを吹き抜けていった。
先日の颶風(台風)から一気に夏が通り過ぎた感じのする京の町は、相も変わらず賑やかだ。
日野とは違い、似たり寄ったりの細道が多い碁盤の町並みも流石に慣れて、今では洛中の通りの名は完璧。
すぐ迷子になっていた初めの頃を思えば、我ながらかなり成長したものだ。
「沖田組長、この男はどうします?」
後ろ手に縄で縛った浪士を前に突き出して、山野さんが私を見た。
先に行われた編成では隊が細かく組分けされ、その中で私は筆頭でもある一番組を任されることになった。
前よりもその責任は重大、これまで以上に気を引き締めてかからねばならない。
だからこそ、邪念は無用。
組長と呼ばれるのはまだ少し変な感じだけれど、以前から懐いてくれている山野さんが同じ組にいるというのは心強かった。
「奉行所で構わないでしょう、食い逃げをするような人が大した情報を持っているようには思えませんしね」
「はい」
幸い、この一番組には私を慕ってくれている人間ばかり。私の指示にも嫌な顔一つせず、きちんと動いてくれる。
それはとても有り難い。少数ではあるが、未だ相容れない連中も中にはいるから。
順調である隊務を嬉しく思いながら二人の隊士に引きずられていく小汚ない浪士を流し見て、残る隊士に微笑した。
「では、そろそろ戻りましょうか」