飼い猫と、番犬。【完結】
……私は、あいつのことを何も知らない。
気付いてしまった事実に、ずしんと腹の底が重くなる。
何度も話すようになってわかったようなつもりになっていたけれど、うちにいるあいつしか、私は知らないのだ。
今までは気にもならなかったし知りたいとも思ったことはなかった。
でも今、たかが自分の知らない山崎を見たくらいで情けない程に動揺してしまっている自分に溜め息が漏れた。
気にしないと決めた筈なのに、あの人との仲が気になって仕方ない。
これまでのあいつの態度とか言葉とか、私に触れた手に……唇、色んな事を思い出して、ちくちくと胸が痛む。
我ながら本当に勝手だ。
何も望まないと決めたのだから、あの人が何であっても私には関係のない事なのに。
どろりと醜い感情の湧いた自分に、ほとほと呆れてしまった。
未熟、ですね。
「……山野さん、帰ったら道場で少し手合わせ願いたいのですが」
こんな時は限界まで体を追い込むに限る。とことん疲れてしまえば何も考えずに眠れるから。
「ええ構いませんよ、喜んで」
そんな私の自分勝手な思いを知らない山野さんの素直な笑顔に少しだけ申し訳なくなる。
でも私は『新選組の沖田総司』、だから。
「……有り難うございます」
邪念は、要らない。