飼い猫と、番犬。【完結】


「烝さん」


だが、いやにはっきりとした琴尾の声に足が止まる。


「最後にうちの子、抱いたってくれへん?」


仮にも元嫁。そう言って抱き抱えられた子供を見ると、何となく断ることも出来なくて。


「……ええよ」


まぁ折角やし。


と、少しばかり緊張した面持ちのそれを受け取った。


しかしながら正直こんな幼い童など抱いたこともなく、何を話したら良いのかも謎だ。


……どないすんねんこれ。


そんな未知の生物をついじろじろと眺めてしまう。


小さいのに確かな重みのあるその体。四、五歳かと思われる男児の肌は見るからに滑らかで、よく日に焼けた元気そうな童だった。


改めてよく見れば目の辺りがやはり琴尾に似ている。


へぇと感心しながら暫し視線を交わすと、それがにへと無垢に笑った。


思わず笑みを返す。


どこまでも真っ直ぐなその笑顔とは逆に、いつもよりぎこちない笑いになってしまう自分がなんともむず痒い。


もーええやろっ。


これ以上その純粋な目に見詰められるのは耐えられそうにない。


「なぁ……」


そろそろ返しても良いだろうと琴尾に声を掛けた直後だ。






「この子、烝さんの子や言うたらどないする?」
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