飼い猫と、番犬。【完結】
沖田の細い髪がふわりと風を孕んで仄かに香る。久し振りに触れたその匂いにまた一つ、俺の中に熱が灯った。
沖田のことを笑ってなどいられない。己の欲には俺もまた単純で真っ直ぐだ。
「……なんですか」
うっすらと笑みを浮かべる俺に、躊躇いがちにこっちを向いたその顔は不服そうに唇が尖り、すぐに視線が泳ぐ。
またどこかに向いてしまわないようにと頬に片手を寄せると微かに熱が伝わってきて、白い月明かりでなければきっと耳まで真っ赤に染まっているのが見えたに違いない。
触れた瞬間から揺れる双眸といい、すぐに顔に出るその反応といい、やはりこいつは分かりやすい。
そんな沖田にフッと小さく笑って目を細める。
「こんな時刻にんな恰好でどないしてん?」
「……別に。ちょっと外の空気を吸いに出ただけです」
「阿呆、んな薄着で風邪引くっちゅーねん。それにや、さっきも言うたけど今の自分はどないしても女子にしか見えん、誰ぞに襲われでもしたらどないすんねん。俺もそうそう助けてはやれへんで?」
甘やかな空気を消して呆れを滲ませた俺に、沖田は僅かに瞠目する。
「……すみ、ません」
しゅんと肩を寄せて大人しく謝るそいつ。
ここで真面目に説教されるとは思っていなかったらしいその反応は中々笑える。
そやさかい虐めたなんねんけど。
「文句は言えんて言うたやろ」