飼い猫と、番犬。【完結】
「女を抱きたいなら遊郭にでも行けばどうですか? 私なんかに手を出すよりずっと良い思いが出来ますよ」
未だに残る血の味に更に苛立ちが増した。
その手癖の悪さならどうせ不自由なんてしてないんでしょう。
私を女扱いするな。
そんなの、今の私にはもう必要ないものなんです。
「慰めなんていりません。貴方の暇潰しになどなりたくない」
一欠片の遠慮もなくズカズカと土足で人の心に踏み込んでくるそいつに無性に苛々して、吐き出す言葉が止まらない。
こんなに人を嫌悪したのなんて初めてだった。
「さっさとうちから出てってください」
もう顔も見たくない。
子供みたいだとは思うけれど、こいつと同じ釜の飯を食べる気には到底なれなくて。
纏めてあった荷を引っ掴むと、私は山崎の反応も見ないままにその狭い部屋をあとにした。
女の恰好で大小を抱え歩く訳にもいかず、置いたままのそれは心配ではある。
が、一刻も早くあいつから離れたいという感情は抑えきれなかった。
……どうせそんな高価なものじゃないですしね。
それに、全部あいつを入隊させた土方さんが悪いんですっ。刀の一振りや二振りくらい盗られたってまた買ってもらえば良いんですよ!
今の私に怖いものなんてない。
苛々任せに全ての責任を土方さんになすりつける。
すぐにでも屯所に戻りたい気分のなか、着替えた後だったことを酷く悔やむけれど、あの男がいるかもしれないあの部屋には暫く近寄りたくもないから。
「あー糞っ!」
大きく独りごつと、私は仕方なく湯屋の暖簾を潜ることにした。