飼い猫と、番犬。【完結】
「わ、たしは……っ」
震えた声を発して沖田が俯く。
力のない弱々しい手が、そっと俺の胸を押し返した。
「違います、駄目ですよそんなの」
「何があかんねん?」
「だって私は沖田総司で、此処には男として」
「ええやん、噂がほんまになるだけやろ。今更誰も気にせぇへんて」
「それでも此処には皆がっ……いるん、です。……だから」
頑なに俺を見ようとしない沖田の指に力が籠る。
ぽそぽそと吐かれた理由はやはり思っていた通りのもので溜め息が溢れた。
ぎゅっと俺の長着を握る手は、離れたくない気持ちの現れのようにも見えるのに。
ちゅうか、
「それ、肯定やとるけど?」
どう考えても好きやて言うてるよな。
ピクリと体を揺らし、それでもこっちを見ない沖田を笑いながら、その額に自分のそれを重ねる。
阿呆め。
「過去がどうであれや、今の自分は別に誰とも恋仲やあらへんのやしそない気にせんでええんちゃうん?」
「で、も」
「どーせあっちも島原行っとんねん、おあいこさんや。自分ばっかしょい込みな、他所気にし過ぎやねん。寧ろ自分が幸せになった方が連中も喜びよるわ」
そしてそのまま俯いていた沖田の顔を額でグッと押し上げた。
やっとその目が再び俺を捉える。
潤んだ眼の裏にある感情はもう聞くまでもないけれど、ここまで勿体ぶられると絶対に言わせたくなるのが人だ。
「ちゅーことで、早よう認め」
「え、やっ、でも」
「早よせな襲うで?」
「っ」
ペロリと口角を舐めて背に回した手に力を籠める。
途端にそいつの体が強張って。
微笑む俺を悔しそうに睨み付けてきた。
「あーもう!そーですよっ」
「そーってどうなん?」
「ーーっ!す……きですっ!」
「はい、よー出来ました」