飼い猫と、番犬。【完結】
「だって、その……祝言をあげるまでは……と」
思っていたらの今か。
生真面目なこいつらしいと言えばこいつらしい。
それにまぁ男として育ったのなら男関係もあの人だけかもしれないし、全てにおいて女扱いに慣れていないのも納得だ。
そのくせ時折無自覚に人を煽ってくるからまた質が悪い。
副長はん、よぉ頑張らはりましたなぁ……。
まぁそれ程大切にしていたということなのかもしれないけれど。
南無南無と心の中でこっそり手を合わせると、気を取り直して身を寄せる。
膝に乗っているお陰で高い位置にある沖田の体は、ただそれだけでその懐に入り込むことが出来た。
ひゃ、といつになく頼りない声をあげて、恥じらいに潤んだ眼が俺を向く。
「俺は副長はん程優しないし。欲しいもんは欲しい」
あげるとも知れぬ祝言を待つなど俺には無理だ。それに、沖田が男として此処にいる以上俺達にその選択肢はない。
そんなことはもう沖田もわかっている筈。だからこいつが選ぶ道は一つしかないのだけれど……。
俺の言葉に体を強張らせた沖田の手が、ぎゅっと俺の腕を掴む。
月明かりに揺れる目の奥にあるのは微かな不安と恐怖で。
「……せやけどまぁ、今日のところはこれで勘弁しといたる」
そんな沖田に小さく笑うと、やっと感情を認めたこいつの頑張りに免じて一先ず我慢してやることにした。