飼い猫と、番犬。【完結】
しかし調子に乗っておちょくっていると、頭を抱えていた沖田から本気の手刀が降ってくる。
それで悦ぶ趣味はない。
ない、が相手はこのじゃじゃ馬だ、このくらいのじゃれつきは想定の範囲。
「すまんすまん、ほれ、どうどう」
「っ」
軽く口付けて怯んだ隙に押さえ込むように抱き抱えてしまえば、もう身を引こうとしても無駄で。
「……馬扱いしないでください」
暫くそのままの形で抱き締めていると、僅かにもがいていた沖田も次第にゆるゆると大人しくなった。
「してへんて。だって俺馬抱っこする趣味あらへんし」
「……貴方は」
呆れた声を漏らして絶句した沖田は、もー良いですと小さく呟き、またぽすりと肩に頭を預ける。
今までと違う、少しだけ甘えの見えるそれに不覚にも頬が緩んだ。
揺れた髪から香る沖田の匂い。
腕に収まる温もり。
静寂の戻った星空の下、久し振りに胸に湧いた愛おしさにそっとそれを抱く力を強くする。
離縁以来となる己のそんな感情がこそばゆくも感じるが、そんなことは言ってやらない。
これまで幾度となく無感情に女を抱いたというのにらしくない。
そんな自身の未熟さに一人苦笑いして、強く吹きつけた冷たい風にぶるりと身を震わせた。