飼い猫と、番犬。【完結】
「どうかしましたか?」
「いえ、今からお昼ですよね?俺も生憎今日は一人で。ご一緒しても構いませんか?」
屈託のない笑みで駆けてきた山野さん。ずっと慕ってくれている彼の申し出を断る理由なんてない。
それに、今は誰かが隣にいてくれた方が安心する。
だって……。
一瞬頭に浮かんだ黒いあいつに頬が熱くなるのを感じながら、それを追い払うように無理矢理笑みを浮かべた。
「ええ勿論」
秋の空気がすぐ様火照った頭を冷やしてくれる。
吹き抜ける冷たい風に少しだけ感謝して、二つ返事で頷いた私は山野さんと連れ立ち、屯所の門を潜った。
折角だからと足を伸ばしてやってきたのは、賑やかな四条河原でもそこそこ人気のあるうどんの屋台だった。
江戸とは違う出汁のきいた薄味の汁は、左之さんなんかは毛嫌いしているけど私は結構好きだ。
前に食べた葛切りなんかもそうだけど、上方の食文化は思いの外好みだったりする。
……って、またあいつのこと考えてるっ。
つい思い出してしまったのは、以前山崎に連れていかれた茶屋でのこと。
すぐに火照る未熟な自分を痛感して、ふるりと首を振った。
これからの時期、温かなうどんはすごくほっとする。
他愛もない話を挟みながら腰のある麺を啜り、あと少しで食べ終えるといったところで、先に食べ終えた山野さんがちらりと視線を寄越した。
「……あの」
?