飼い猫と、番犬。【完結】
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「んのアマおもくそ噛みよってからに……」
恐らく歯形がくっきり残るであろう舌がひりひりと痛んで、微妙に呂律が回らない。
口の中には未だ鉄臭い血の味が広がっている。
唾と混じって粘度の増したそれを道端へと吐き出すだけでも刺すような痛みに襲われて思わず眉が寄った。
ほんま千切れるか思たわ、おっそろしー女子やで。
別に減るもんやないねんし、ちょっとくらい吸うたかてかめへんやんなぁ。
傾き始めた陽の光に目を細め、一人ぶつくさしながらあの眼差しを思い返す。
強い光を宿しながらも諸刃に揺れる、あの男装の麗人。
一筋縄ではいかん思てたけど、こらまた気ぃ強いやっちゃ。
……ま、そうこんとおもろないけどな。
「った」
込み上げる笑いにくっと唇を上げるとズキズキと痛んだ舌に声が漏れる。
それでもさっきの彼女の様子を思い出すと自然と頬が緩んでしまうから。
血の混じった唾を吐き出して、俺はまた少しだけ足を早めた。
あの雨の日。
本当はあれを──あいつらを見る為に、仕事を片付けたあとわざわざ遠回りして壬生に寄った。
近頃この辺りで何度も名を耳にするようになっていた壬生浪。
金子で仕事を請け負う俺としては、いつか邪魔になりそうな予感のする奴らを一度この目で見ておきたかったからだ。
運が良いのか悪いのか。
あんな血生臭い共食いを見ることになるとは思っていなかったけれど。
まさかあの『沖田総司』が女やなんてなぁ。