飼い猫と、番犬。【完結】
引き締まったその二の腕を掴んで少しだけぼーっとしていた私に山野さんがまた狼狽える。
仄かに顔を赤らめた彼も大概初だ。
別に色目を使ってる訳じゃないんですけど……男色を認めたらこんな弊害も出るんですねぇ……。
なんて。必要以上に慌てる彼の反応をどこか他人事のように感じながら、私達はまた、元来た道を歩き始める。
色々と話しかけてくれる山野さんに相槌を返しながら、私は久し振りに穏やかな気持ちで遠くの空を見上げた。
山野さんなら自ら言いふらすようなことはしないだろうけど、それでもその内私が認めたこともまた噂になって拡がっていくんだろう。
そうすればいつかきっと平助の耳にも入る。
その前にちゃんと言わなければ。
やっぱり平助は大切だから。
いつまでも曖昧なまま素知らぬ顔で山崎と、なんて絶対に駄目です。
平助は言わないでと言った。
まだ、聞きたくないからと。
でもあれからもうかなり経つ。そろそろちゃんと向き合って話しても良い頃だと思う。
前に進むからにはもう逃げちゃ駄目なんです。
じゃないと山崎にまでどこか後ろ暗いままになってしまうから。
「……よし」
山野さんに気付かれないよう小さく呟く。腹を据えれば心も幾分軽くなった。
塀の向こうに並ぶ鮮やかな木々に目を細め、私は屯所の門を潜った。