飼い猫と、番犬。【完結】
……伊東さんと?
思いもよらなかった名前に思わず眉が寄った。
けれどよく考えれば平助は元々伊東さんの寄り弟子だったと聞く。彼の入隊も平助の誘いがあったからだ。親しい付き合いがあったとしても何ら可笑しいことはない。
なら今日は無理ですね……。
「そうですか。すみません、有り難うございます」
「伝言なら俺達が伝えときますけど?」
「いえ、またにしますよ」
人伝に話せるものじゃありませんしね。
やっと話そうと勇んだところでの平助の不在は残念だけど、こればかりは仕方ない。
改めて三人に礼を言うと、勢いのなくなった足をとぼとぼ動かし部屋に戻ることにした。
けれど翌日。
「……大宮門に?」
昨日の一人が、巡察に出ようとしていた私に平助からの伝言を伝えに来た。
「はい、暮六ツ半(この時分19時前頃)にそこで待っているからと」
大宮門と言えば、この西本願寺の西側にある普段は閉じられた門だ。辺りには木々が生い茂っていて、坊さんが手入れをする以外は誰も近寄らない。
まぁ確かに話をするには良い場所かもしれませんけど。
「すみません、でしゃばった真似を」
ぺこりとその人が頭を下げる。
けれど特に口止めもしていなかったし、私が探していたことを伝えたこの人の行動は極自然だ。
「いえ、有り難うございます」
それよりも頭を占めるのは夜のこと。
一度萎んでしまった勢いに、少しだけ胸が緊張でドキドキする。
早く夜になって欲しいような欲しくないような思いに深く息を吐いて、兎に角今は目の前の隊務だと気合いを入れ直し、提げた大刀を強く握った。