飼い猫と、番犬。【完結】
その日の月は弓張月だった。
少し前まで仄かに明るさを残していた西の空も、今はすっかり星空へと変わっていて。
木の影に覆われたそこは一段と暗く、気を付けて歩かないと木の根に足を取られてしまいそうだ。
恐らく平助も灯りは持ってきていない筈。この暗さでは先に着いているのかさえもわからなかった。
何から話しましょう……。
カサカサと鳴る葉の音が寂しげで、不安を煽る。
平助も話を望んでくれたのだから大丈夫だと思ってはみても、小さく燻っていた不安がどうしても顔を覗かせる。
平助は私の家族みたいな存在だった。その家族から拒絶されるかもしれないと思うと怖い。
私の出した答えを、平助は一体何と言って受けとるのか。
避けては通れない道。
自ら言うと決めた事。
それでもいざ言うとなればやはり緊張する。
「……さむ」
気を紛らわせようと、なんでもない言葉を口にしてみる。
実際、綿入りを羽織って出て正解だった。木に囲まれている此処は風こそないが、吐く息は変わらず白い。
平助もちゃんと暖かくしてると良いんですけど。
そんなことを考えている内にも奥に門が見えてきた。
大きさだけはそこそこあるものの、他の門より簡素な造りのそこは人影も気配もなく、どうやら平助はまだ来ていないようだった。
少しだけほっとして気が抜けた。
そんな矢先だった。