飼い猫と、番犬。【完結】
仕事柄目だけは肥えている自負はあった。
ほんの少しの仕草や表情、体つきから大体のことはわかる。
恐ろしく強いくせに女と見まごう程に美しい男がいるとは聞いていたが、それがまだ若い本物の女だとは正直この俺も驚いた。
自分より体躯の良い男を難なく斬り捨てる細い体。確かに上背はあるが、あれは力ではなく速さと的確な急所の見極めによって成っている強さだ。
真っ直ぐな目をして同じ女の首をも跳ねる、凛々しい女。
貼り付けた笑みで男の背を押す、弱々しい女。
面白そうだと思った。
男の三歩後ろを黙ってついてくる従順な女よりよっぽどそそる。
従順に見える女程その実、裏で何を考えているのかわからない奴ばかりなのだから。
所詮女は甘い睦言を囁けば簡単に心を変える、卑しい生き物。
例え一生添い遂げると誓った相手ですら簡単に裏切ってしまえる。
何でもないような顔で。
いつも通り微笑みながら。
重ねた体の向こうに別の誰かを思える程に、女はしたたかだ。
そんな女を何人も抱いた。
すぐ傍にも……いた。
結局のところ俺のような裏の人間にとって女など、情報、もしくは刹那の快楽を得る為のものであればそれで良い。
心を移すだけ無駄なのだ、と。
そう、思っていたのに。
あの女には何故か不思議と興味が湧いた。