飼い猫と、番犬。【完結】

勿論単純に女として、ではない。


見た目も中身も、そこらの女とは一味も二味も違うあいつ。


何故女の身でありながら男のふりをしてまで人斬りに堕ちたのか。何やら事情がありそうなあの男とはどういう関係なのか。壬生浪という男所帯でのあれの立ち位置はどんなものなのか。


あれの心も、他の女のように易々と移ろうのか。


言わば単なる知的好奇心とお遊びだ。




──あかん、めっちゃおもろそう。


なんて一瞬爛々としてしまった俺を、あの女が振り返った時は微かに焦ったが。


そんな敏感なそいつに益々やる気が湧いた。


丁度受けていた仕事も終わったばかり。これ幸いと俺は林の姓を隠して山崎烝としてあそこに潜り込み、今に至る。



まぁ実際に近付いてみると思ったより幼稚で単純で。昔馴染みの幹部の連中といれば気楽に笑みすら見せるあの女に、あの時見せた愁いはどこにいったと聞きたくはなったが。


あからさまに俺を警戒し、敵意を向けてくるそいつもまた、牙を剥く番犬のようで中々面白い。



やっぱ調教のし甲斐がある方がずっと燃えるやん? 遊女や芸妓みたいなん落とすよりよっぽどおもろいわ。


早々に本性を見せたのもあれと遊ぶ為の定石。


俺があんくらいでのこのこ引き下がる思たら大間違いや。お楽しみはこっからやねんで?



にやりと小さく笑って鉄臭い唾を飲み込むと、戻ってきた屯所の奥にある副長室を目指す。



……さぁ、次おうた時の顔が楽しみや。



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