飼い猫と、番犬。【完結】
複雑そうに俺を見上げる沖田にそんな軽口を叩いて口付けたのは、これが深く考え過ぎない様にと思ったからだ。
理由が理由とは言え、断られれば少なからず引っ掛かる部分もあるだろうから。
案の定、僅かに緩んだ空気の中そいつを抱き上げると、毎度の如く足で布団を広げる。
巻き上がった風で火が消えた部屋は一瞬にして夜の闇に包まれた。
「せやし早よ寝て養生しぃ」
これでも一応、心配したのだ。
それに、あの時躊躇いもなく死を選ぼうとしたこいつの覚悟が俺にだけ許されるというのなら、最初くらいは大切にしてやろうと思う。
まぁそんな事は言わないけれど。
ただ、あの人がこいつにだけは手を出さなかった理由が今日少し、わかった気がした。
「はみ出んで、もっとこっち来(キ)ぃや」
狭い布団、そう声を掛ければ仰向けに固まっていた沖田が半身を傾け此方を向く。
顔を伏せつつも、するりと身を寄せてきた沖田はやはりこれまでとは別人の様に素直だった。
よくよく考えてみれば、起きているこいつと共寝をするのは初めてだった。
伽はなくとも、こういうのもまた良いと思えるのは、こいつだからかもしれない。
楼の女では得られない温もり。
身体だけでない繋がりを求められるというのは、思ったよりも心地良いものだった。
「おやすみ」
「……おやすみなさい」
高々こんな会話で満足しそうな自分に苦笑いして、俺もまた僅かに体を寄せた。