飼い猫と、番犬。【完結】
それが突然熱を測られるという、思いの外勢いのある反応で返ってきて、少しばかり面食らってしまった。
しかし、彼の懐っこさと距離感が平助のそれと重なり、何だか笑えてくる。
この人が同じ組で本当に良かった。
そんな思いに頬が緩んだ。
「……今朝も、まだ辛かったんじゃないですか?」
「今朝?」
私に笑われたのが恥ずかしかったのか、手を離した山野さんがむず痒そうに視線を逸らす。
聞き返しつつ浮かんだのはあの打ち込みの事で。
何処からか見られていたのかとこれまた苦笑いした。
「いえ、あれは単にぼんやりしていただけなんです。駄目ですね、すみません」
「あ、いえ!仕方ないですよ、病み上がりですし」
そんな時もあります、と慌てて訂正してくれる山野さんの笑顔に少しほっとする。
実際は熱で臥せっていた訳ではないからそこを思えば複雑ではあるけれど、それでも同じ組の組長として素直にまた頑張ろうと思えた。
寄せられた信頼を裏切る訳にはいかないから。
そして、日野からの付き合い以外で最も気兼ねなく話せる彼だからこそ、ふと聞いてみたくなった。
ぼんやりの原因。
この三日、やる事もない部屋でもやもやと考えていたそれは、今更皆には聞けなかった。
これまで同性の友もおらず、姉上とも長く話していない……というかそんな間柄ではなかった。
故に、誰にも聞けなかった事。