飼い猫と、番犬。【完結】
「……あの、変な事聞いても良いですか?」
そう前置きしたのは、自分でも可笑しな質問だとわかっているからだ。それに自分の恥を曝すに近い。
けど山野さんなら笑わない気がした。
……そりゃ、驚くかもしれませんが。
「? ええ、どうぞ」
それでもいざ口にしようとすると喉がぺとりと貼り付いた。恥ずかしさから身体中の血が昇ってくるのが自分でもわかる。
緊張に掌を握る。
似たような会話は此処でも時折耳にします。さらりと聞いてしまえば良いんです。こうして間を空けてしまうから余計に恥ずかしい気がするんですよ。
そう自分を鼓舞して、穏やかに首を傾げる山野さんを見据えた。
「……その、初めての時ってどう……でした?」
「え、何のですか?」
「その……恋仲との……夜の」
「…………へっ!?」
数瞬の間を置いて顔を赤らめた彼に、こっちは耳まで火がついた。
「や!言いたくなければ良いんですっ」
そんな山野さんの反応につい逃げたくなって、弱腰な言葉を口走りながら慌ててその胴着の袖を摘まむ。
早鐘を打つ心の臓に指先までが脈を打つ。このまま笑ってなかった事にしようかとも思った。
でもここまで言ったのだ。
……もう少し、だけ。
頑張ってみよう、そんな思いで俯きかけた視線をそっと上げる。
「その……今までこんな話が出来る人がいなくて、その、何にも知らないのもどうかなって……」