飼い猫と、番犬。【完結】

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消えゆく夕日が西の空を美しく染め上げる逢魔刻。


流れる雲は鴇色に輝き、珍しく目を奪われそうな光景が広がっている。


しかし一歩部屋に入ってしまえば直接日の当たらなくなった薄暗い室内は、既に行灯がその代わりを務めていて。


そんな部屋で一人、文机に向かい墨を磨る逞しい背中は最早見慣れたものだった。



「──ちゅうことで、まぁ今日も大した報告はありませんわ」


局長と共に公卿屋敷に出向き、何やら小難しい話を色々。


近頃よく駆り出されるようになったそんな任務の一応の報告を終える。


「……局長は?」


こちらを向かずに低い声を寄越した副長の顔は見えない。


「なんや今日はそのまま帰る言うてにこにこしながら帰っていかはりましたけど」

「……」


けれども微かに聞こえた舌打ちが、その人の苛立ちを分かりやすく伝えてきた。


それはそうだ。
帰るといっても最近身請けした遊女の元へ、なのだから。


人も増え、そこそこ名の通る様になってきたこの新選組。
近頃では今日の様に公卿相手に時勢を語ることも増えてきた。


隊の統制や雑務に忙しい副長に比べ、愛想も学もある伊東参謀は相談役として適任らしく、局長は俺達から見てもわかる程に彼にべったりだ。


口が達者で人を持ち上げるのが巧い彼。


局長が天狗になるのにそう時間は掛からなかった。
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