飼い猫と、番犬。【完結】
以前少しばかり忠告してやったお陰で沖田に手を出すのを諦めたらしい伊東は、代わりの獲物を見つけたようだ。
身体を張ることなく全てを手に入れることが出来る、上等の獲物を。
上を手中に納めてしまえばあとは楽なもの。
こつこつと味方を増やす手間も要らない。ゆっくりと中から己の思想に染めてゆけば良いのだから。
「ええんですか?伊東はん」
「良くねぇよ馬鹿」
即返って来たことからしてこの人も相当思うところがあるらしい。
まぁ自分の預かり知らぬところでひょいと軽々参謀になっていたのだ、それも当然だろう。
「だが隊規に触れた訳でもねぇ奴をそう邪険にも扱えねえからな、仮にもあれは参謀だ」
こういう時に組織と言うものは心底面倒臭くてややこしい。
暫くは様子見、そう言われれば俺にこれ以上この話を続ける理由もなかった。
策を練るのは副長の役目だ。
「ほなま、俺はこれで」
風呂も飯も上機嫌な局長に誘われるまま外で済ませた。あとは寝るだけ。
一日付き合わされた堅苦しい席で凝り固まった首を鳴らし、立ち上がろうと爪先を立てたところでことり、墨が置かれた。
「……総司の調子はどうだ?」