飼い猫と、番犬。【完結】
それから五日。
「……さっぶ」
思わず漏れた呟きが白く染まる夜だった。
今日、この冬初めての雪が舞った。
積もるには程遠いものの朝から粉雪が降っては消えを繰り返し、日が傾くにつれて空気はどんどん冷えていった。
京の冬はまさに身に沁みる。
生まれである大坂は雪などあまり降らなかった。こんなところでその違いを沁々と感じる。
冬は動きも鈍る、雪が存在を知らせる。派手な立ち回りをしない俺達にとって体温を奪うだけの冬は全く以て嫌な季節でしかない。
寒さは嫌い。
だからこそ俺は無意識に温もりを求めてしまうのかもしれない。
「そーぉちゃん」
「わ!」
冷えた廊下、後ろから抱き付いた俺に綿入りを羽織った沖田は身を固くする。
相変わらず俺の登場には慣れないようだ。
「な、なんですかっ」
「最後の診察。副長に報告するさかいにちと見せや」
言いつつぺろりと綿入りを広げれば、容赦のない肘鉄が飛んでくる。
「馬鹿ですかっ!こんなところで見せられる訳ないでしょう!」
「ほな俺んとこき」
振り返った途端、ぐっと言葉に詰まったそいつは漸くのせられたことに気が付いたらしい。
肘鉄を避け少しだけ距離をとった俺は、不満と羞恥の入れ混じるその膨れっ面に笑みを返し、あえてわざとらしく小首を傾げた。
「俺は此処でもええけど?」
「あーもーわかりましたよっ、行けば良いんでしょ行けばっ」