飼い猫と、番犬。【完結】
ここでそれはあかんやろ。
うん、あかん。
思わぬ方向から来た一手が更に俺を煽る。
今すぐにでも堰が切れそうな俺に、沖田は堪らずといった風に身を縮こめ目を伏せた。
俺の中ではもうすっかり過去の事となっていたあの出来事。
琴尾の事は元々敢えて隠しているつもりもなかった。
不安なら取り除くまで。
「心配せんでええて、あれは昔出てった元嫁や」
「よ……嫁?」
「元な元。言うとくけどたまたま会うただけやしな。ついでに言うとあの餓鬼も別に俺の子ちゃうし」
一瞬不安げに眉を下げた沖田に先回りで事実を並べる。ここで妙な勘違いをされても困る。
「離縁してからあの日久々に会うたさかいちいっとばかし挨拶しただけや。住んどる場所も知らん、もう会うこともないやろ」
「……っ」
待ちきれず首筋に舌を這わせるとその身体がぴくりと跳ねた。同時に、ほどけた帯をするりと抜き取る。
女の目が、俺を向いた。
「過去は過去や。俺が今惚れてんのは自分やし、自分かてそう決めたさかいに今此処におるんやろ?」
過ぎた刻ばかりを気にしては何も見えなくなるだけ。
それは、こいつもわかっている筈だ。
四肢でその体を囲い、真上から見下ろし言えば、漸く沖田がこくりと小さく頷く。
恥ずかしそうに、けれども意思の籠ったその頷きに、自然と俺の笑みも深くなる。
「ま、今からゆっくり確かめたらええよ」