飼い猫と、番犬。【完結】
「っ、や」
必死に声を押し殺そうとする沖田が小さく喘いで身を捩る。
『山崎』なのか『嫌』なのか『止めて』なのか。続きが紡がれなかったそれをさらりと流してそいつに触れる。
瞬間、俺の腕を掴む指には一段と力が籠もり、与えられる刺激に耐えようとする顔が艶かしく俺の熱を疼かせた。
十分に熟れ、微かな動きにすら敏感に反応するそいつにこのまま突き進みたくなる。
けれど思い出した以上これだけは聞いておきたかった。
「実は山崎も仕事用でな、俺もほんまは林っちゅうんや」
「は……や?」
「そ。自分もほんまは総司やないやろ?なんちゅうねん?」
対外的には男だったとしても、己の腹を痛め産んだ子、恐らく女の名も与えられている筈だ。
幹部の連中も当たり前のように総司の名を呼び、言い間違うこともない。つまり本当に知らないか呼ぶことを禁じられているかのどちらか。
だからこそこれの奥に仕舞われているその名が気になった。
きっとこいつにとってそれは、何よりも大切なもののような気がするから。
触れてみたいと、思った。
熱に溶けた沖田の目にふと光が戻る。
逡巡するようにゆらゆらと揺れた目は何度かの瞬きのあと、僅かに細められた。
それは初めて俺に向けられた、穏やかな笑みだった。
「……貴方は、もう何度も呼んでいますよ。……奏(ソウ)、奏でると書いて、奏、です」